「布団二つあってナツキと窮屈に眠る意味がわからん」
「わかってる? わたしが、タクジのお嫁さんになるんだよ」
「それ聞くの久しぶりだな」

 昔は口癖のようにつぶやいてた。大きくなったら俺と結婚すると。
 そのたびにハイハイって返事したものだ。

「いつまでそんなこと言ってんの」
「一生」
「とか言って。どこの誰かもわかんねえ男のものになるんだろーよ」 
「三つ子の魂百までって言うじゃん」
「言うね」
「なおらないと思うの。どうしようもなく、暑がりなのも。ベッドの上でのアイスも」
「暑がりは仕方ないがベッドで喰うのは直せ」
「タクジのお嫁さんになりたい、って気持ちも」

 いつか、お前も。
 わざわざ電車を乗り換えてまで、ここに通う金も時間も惜しくなる日がくるだろう。
 それを俺は受け入れなければならない。
 お前のすべてを奪われる覚悟をしなければならない。
 そのために、離れたっていうのに。

「はやく冬にならないかなあ」
「そんなに夏が嫌いか」
「んーん。意外に好きだよ。花火も夏祭りも楽しかったしね」
「なら、夏が消えるの大人しく待て」
「やだ。冬になればさ。タクジにくっつく正当な理由ができる」