―雅side―



意味が分からない。



今、楓はなんて言った?



楓は私達と同じく、ついさっきこの世界に来た人間。



なのに…何を…言った…?



『水の呼吸。』



そう言った楓の目を見ると…明らかにさっきとは違って。



鬼はそれに気付いていないのか、真っ直ぐ楓に突っ込んでくる。



麗子「楓!」



聞こえたはずのママもやっぱり焦っていて、私に限っては最早声も出ない。



やだ、死ぬ、楓が、死ぬ。



“あの時”以来のその恐怖に、身体が震えて止まらない。



雅「やめて…」



そして、鬼はそのまま…



雅「やめてー!!!!」



楓の首を、掻っ切った。



…ように、見えた、のに、



『ふっ…』



息を整えるように、私の隣に飛んでくる。



飛ばされた、とかそう言うのではなく…自分から、来たんだ。



…でも、やっぱり無事ではなくて…右目に、怪我をしている。



ぽたぽたと、目の前に血が落ちてきて…あまりの恐怖に涙が出てくる。



…別に大丈夫だ、グロいのは得意ではないけど見ていられる。



ただ…それが、私の大切な姉から出ているもので。



それに対しての恐怖が拭えず、涙が止まってくれないんだ。



ぽん…



…急に、楓が私の頭を撫でる。



『…大丈夫。』



…その声は本当に安心するもので…私は思わず、頷く。



そして…楓はまた、



『スーーーーー…』



さっきと同じように、呼吸をした。



それはまるで…アニメで炭治郎がやっていたもののようで…



『全集中、』



鬼が飛び掛かって来る、が、楓は飛んでそれを避ける。



「ちっ…ただのガキじゃねぇのか…!!」



…そんなはずない、だって楓は、



『水の呼吸。』



私達と一緒に…ついさっき…此処に来て…アニメで全集中のやり方を見ているだけ…なのに。



「ちょこまかと…此れで終わらせてやる!!」



そう言って…鬼が、思い切り楓に突っ込む。



麗子「楓ええええ!!!!」



…その時、楓の小さな冷静な声が…私の耳に、しっかりと届いてきた。



『漆ノ型、雫波紋突き(しずくはもんづき)。』