「茅ヶ崎ー!はよしろや、お前待ってんだっつの」


「今行くからちょっと待てって!」


茅ヶ崎くんは声を張り上げて部活の友達に返事をする。


「ごめん行かなきゃ。…あ、そうだ」


茅ヶ崎くんはそう言うと、自転車のカゴに乗ったスクールバッグを漁った。


男子らしい、糸がほつれて、所々紺の色が抜けたカバン。


「はい、これ」


差し出されたのは───


「イチゴミルク…」


「さっき買ったばっかだからまだ冷たいよ。あ、口つけてないし新品だから。それ飲んで元気出して」


茅ヶ崎くんはそう言いながら私にイチゴミルクを渡し、自転車のスタンドを蹴り上げて跨った。


「じゃあね、また明日」


私が声を発する暇もなく、茅ヶ崎くんは自転車を漕ぎ出して校門に向かっていった。


茅ヶ崎くんの背中はどんどん遠くなっていく。


私はイチゴミルクに視線を落とした。


デフォルメされたいちごが、これでもかと思うほど散らばったパッケージ。


「大嫌い」


呟いた声は硬いアスファルトに落ちて消えた。