私は、蒼樹さんの和菓子屋でアルバイトを始めました。大好きな着物を着て、お客様に和菓子を売ります。蒼樹さんの言う通り、人間だけではなく妖怪のお客様もいらっしゃいますが、新しい出会いに喜びを感じながら働きます。

蒼樹さんは、私の名前を呼び捨てにするようになり、敬語もなくなりました。

そして、私が高校を卒業した後、蒼樹さんはこう言ってくれました。

「栞が二十歳になったら結婚しよう」



私と蒼樹さんは一緒に暮らしています。一緒に家に帰り、私は食事を作ります。

「栞……」

トマトを切っていると、蒼樹さんが背後から抱きしめてきました。

「蒼樹さん、夕食が作れません」

私はそう苦笑しますが、蒼樹さんは抱きしめる力を緩めることはありません。彼はこうしてよく甘えてくるのです。

「実は、明日から私はあの世へしばらく行かなければいけないんだ」

「えっ……」

あの世というのは、人が死んだ後に行く場所です。幽霊だけでなく、妖怪も行き来しています。普通の人には行くことはできませんが、半分妖怪の蒼樹さんは行くことができるのです。