「まだ夜明け前だ。今日は休みだろ? もう一度眠れ」

呆然としている私に声をかけ、頭に小さなキスを落としてゆっくり部屋を出て行った。

残された私はどうしてよいかわからず、身じろぎすらできない。


……今、キスされた? なんて言ったの? どうして圭太が出てくるの?


そろそろと触れられた唇に指で触れる。指が知らない間に震えて、動悸が激しくなる。

わけがわからない。振り回すだけならやめてほしい。

私は器用な人間じゃないし、取り繕うのも上手くない。

いくら年齢を重ねても割り切った恋愛ができるほど大人にはなれないし、たかがキス、と捨て置くことすらできない。

その証拠にさっきからまるで全力疾走したかのように鼓動が速い。

恋愛からずっと離れた位置にいる私がこれからもし恋愛をするなら、同じ時間を穏やかに共有してゆっくり共に歩んでいける人がいい。

学生の頃のようにがむしゃらで向こう見ずな恋愛なんて、しかも絶対に叶いそうもない不毛な恋なんてしたくない。