エリート御曹司と愛され束縛同居

「緊張しすぎ」

しばらく時間が経ち、専務が先輩方の席近くでお話されている際に、遥さんがそっと私の耳元近くで言った。

津守さんはそんな遥さんを見て片眉を上げた。

「随分岩瀬さんを気にかけていらっしゃいますね、先程からずっとその席から動かれていませんし」

「そうですか?」

はぐらかすのが誰よりうまいこの人は余裕の表情を浮かべて返事をしている。

自宅で私に接するような横柄な態度を相変わらず会社ではちっとも見せない。

いかにも物腰が柔らかく、穏やかな御曹司といった調子で、表情も優しく王子様然としている。

この様子では女性からモテるのも当然だと思う。

お酒にも強いのか、酔った素振りすらない。

逆にお酒に弱い私は耳も頬も熱い。

勧めていただいたお酒を飲みすぎてしまったようだ。きっと今頃私の顔は茹でだこのように真っ赤だろう。

「ふふっ、ねえ岩瀬さん。副社長はあなたをいつもとても心配しているの。私に様子を逐一尋ねてくるのよ。今まで誰に対しても平等で紳士的だった副社長とは思えない態度に、女性社員の間ではとうとう本命の恋人が現れたのかって噂になってるくらいよ」

楽しそうに表情を崩す津守さんの遠慮ない物言いに、思わず目を見開く。

「まったくいくら従姉弟とはいえ、容赦ないですね」

是川さんが困ったように口を挟む。

従姉弟というふたりの関係性を初めて知った。言われてみれば目を惹く面立ちはどこか似ている。

「あらだって、ここ数日、副社長はずっと機嫌がいいでしょう。しかも噂も否定しないんですもの」

得意気に話されて、心拍数がどんどん速くなっていく。


いつの間にそんな噂が流れているの? それに否定しないって……。