エリート御曹司と愛され束縛同居

着任して一週間後、会社近くの料亭で津守さんが幹事となり歓迎会を開いてくれた。

落ち着いた雰囲気の座敷はもちろん個室だ。

以前の職場で参加していた居酒屋での歓送迎会とは雰囲気がまったく異なり戸惑いを隠せない。

社長は急な接待が入ってしまい、すぐに離席しなければいけなくなったと前日に津守さんに言われていた。


遥さんの父親である社長は、着任のご挨拶に伺った際、柔和な笑顔を見せてくださった。

黒髪にほんの少し白いものが混じっているが精悍な面立ちは年齢を重ねていても若々しい。

「今日は本当に申し訳ないね。これから息子をよろしく」

接待前の忙しい時間に立ち寄ってくださった社長が、個室の入り口近くで優しく声をかけてくださった。

既に座敷内にいた遥さんが父親の姿に気づき、入り口までやってきて私の右隣に立った。

「いえ、お忙しいところありがとうございます。未熟者ですがこれから一生懸命務めたいと思っております」

頭を下げると遥さんが口を挟む。

「そんなに畏まらなくていい。ここは職場じゃないし歓迎会だろ」

「お前が是非と推したのは知っているが、あまり岩瀬くんを困らせるなよ」

社長は小さめの声で意味ありげな言葉を口にする。

その発言にチラリと傍らの副社長を盗み見る。威厳ある雰囲気はさすが親子というべきか、よく似ている。


まさか同居の件や恋人のフリの件は話してないよね……?


内心冷や汗をかきながら必死で口角を引き上げる。

「もちろん。公私共に支えてもらうつもりですから、無理はさせませんよ」

相好を崩して爽やかにとんでもない発言をする副社長を思わず凝視する。驚きすぎて声が出ない。