「そう言えば今日、九重グループの新副社長が来社されたんですよ!」

お説教はここまで、というように弾んだ声で言う。

「九重新副社長……帰国されているの? 海外事業の引継ぎでしばらく戻られないって噂を聞いたけど……」


今期より九重グループの副社長に九重グループ御曹司が就任したという話は各所で聞いていた。

日本で一番難しいと言われる大学を首席で卒業した後、自身のグループ会社に就職し、めきめき頭角を現しているという業界では有名な人物だ。

ただ、ここ数年は海外での事業に就いていためほとんど帰国していなかったらしく、あまり噂を聞かなかった。


我が社の社長は確か九重副社長の従兄にあたる。

年齢も当社社長が三十五歳、九重新副社長が三十歳でふたりは親しいと総務課の先輩に以前教えてもらった。

親会社の副社長がわざわざ子会社の当社を訪問したのはそういった関係性もあるのだろう。


「さすが澪さん、親会社の情報に詳しいですね。帰国されていたみたいで、非公式のプライベートに近い訪問だそうです」

後輩の賛辞に首を横に振る。

「知っているのは関わりのある部分だけよ。九重グループの方が当社にお見えになる機会はあまりないし。それにしても佳奈ちゃん、よく九重新副社長だってわかったわね」