エリート御曹司と愛され束縛同居

秘書業務初日はあれこれ教えてもらっている間に、あっという間に過ぎて行った。

基本的に副社長と行動を共にしているのは是川さんだそうで、私が外出する機会はそれほどないらしい。それよりも今は秘書業務の基本を学び習得するようにと言われた。

「焦らなくていいのよ。わからない時はいつでも聞いてね。副社長と是川さんに前々から岩瀬さんの話は聞いていて、会える日をとても楽しみにしていたのよ」

退社時間になり、身の回りを片付けている際に言われた。

今日一日つきっきりで教えていただき、迷惑もかけ通しだったにも関わらず、優しく接していただきとても嬉しかった。

「あの、私の話って……」

「今は時間がないから、あなたの歓迎会でゆっくり話すわ」

綺麗に口紅を塗った唇を綻ばせて楽し気に言いながら手帳を開く。

「歓迎会をしてくださるんですか?」

「もちろんよ。社長、副社長や専務、常務にはお伝えしているから。この辺りの日程で考えているのだけど大丈夫かしら?」

優しい配慮に胸の中が熱くなる。

私では即戦力にならないので業務の滞りを防ぐため、退職を若干延期してくださっていた先輩もとても親切だ。

一日も早く即戦力になれるように努力しなくてはいけない。

「大丈夫です。ありがとうございます、とても嬉しいです」

「じゃあ日程を調整するわね。決まったら伝えるから。お疲れ様、気をつけて帰ってね。私はこの書類を完成させたら退社するから」

そう言って送り出してくれた津守さんや先輩方に挨拶をして秘書課を出た。

是川さんは副社長と外出中で不在だった。


会社の外に出て、ひとつ大きな息を吐くと朝から感じていた緊張感が少しほぐれる。

これから頑張ろう、そう心に誓って藍色に染まった空を見上げた。