エリート御曹司と愛され束縛同居

その後、是川さんに津守(つもり)さんという女性秘書を紹介された。

私の教育担当、指導係を務めてくださる三十五歳の津守さんはベテラン秘書で、現在は是川さんの補佐というかたちで副社長の秘書業務に就いている。小学生の男の子ふたりのママでもあり、気さくな人だ。

「岩瀬さんが正式に着任したら、私は専務の秘書に戻る予定なの」

津守さんは元々専務つきの秘書だったが、今回の急な事態で担当が変わったらしい。私が一人前になった暁には元の担当に戻る予定だと言われた。

「副社長は最近いつにもまして忙しいのよ。新しいホテルの建設計画が大詰めなの」

そう言って早速席に案内してくれた。

秘書課は六つのデスクを対向配置していて、一番奥には室長である是川さんのデスクがあり、その手前は阪井さんの席だ。

阪井さんの真向かいが津守さんの席で私はその右隣の席になった。

各秘書を管理する立場でもある阪井さんはあいにく不在だった。社長に頻繁に同行している是川さんは外出が多いと教えられた。

「もしかして湾岸地区のですか?」

津守さんはサラサラのショートヘアを揺らして頷く。

「そう、これからは岩瀬さんも関係者の方に会う機会が増えるから説明するわね。基本的に私たちの仕事は副社長のスケジュール管理が中心だけど、それ以外にメールや電話応対はもちろん、来客の接遇もあるから」

そう言って分厚いファイルを机の中から取り出して見せてくれた。

「湾岸地区の新ホテル建設計画は社長が進めていたんだけど、副社長が引き継いだのよ」

その計画は二年ほど前に大々的に報じられていた記憶がある。日向不動産株式会社でも噂になっていたし、新聞でも読んだ。