エリート御曹司と愛され束縛同居

車がひと際大きな高層ビルの前に滑らかに到着する。

朝日を浴びてガラスの壁がキラキラと輝き、改めてこの人の生きる場所を垣間見た気がした。

普通の会社員の私とは違う大きな責任を背負って生きている、遠い世界の人なのだと思い知らされた気がした。

その事実がなぜか苦しくて、心が緊張とは違う重苦しさでいっぱいになる。


「澪、着いたぞ?」

低い声にハッとする。

気がつけば副社長は既に車から降りていて、車内を訝し気に覗き込んでいる。

秘書なのに一番最後に降りるなんて、失態だ。是川さんはもちろん既に車外に立っている。

「も、申し訳ありません」

慌てて車から降りる。

「……具合が悪いのか?」

瞬時に心配そうな目が向けられる。

熱で倒れた日を思い出しているのかもしれない。大きな手の平がそっと額にあてられて、その近い距離と親密な仕草に鼓動が暴れだす。

いつもの彼の香りに包まれて心が落ち着かなくなる。心配されている場合じゃない。

「だ、大丈夫です。緊張しているだけです」

慌てて答え、サッと身体をひく。

「……熱はないな。無理をするなよ。気負う必要はない、お前は俺が守る」

当たり前のようにそう言って、額から手を外す。

この場に確実に相応しくない台詞に頬が一気に火照りだす。

言い返そうと見上げた目の優しさに息を呑む。

普段から仰々しい出迎えを拒否している彼はどこか名残惜しそうに私を見つめた後、長い足を動かして社内に向かって歩き出す。

熱くなった頬を隠すように俯いて後に続く私に是川さんはなにも言わなかった。