エリート御曹司と愛され束縛同居

迎えた九重株式会社初出勤日。

一般社員の私は電車で出勤すると主張したのに、副社長は聞く耳を持たなかった。

「行き先は同じだし、是川もいるんだから構わないだろう」

「構います。新人の秘書が副社長と同じ車で出勤だなんて、ほかの社員に示しがつきません」

断固拒否すると面白そうに片眉を上げて凝視される。そんな仕草さえカッコ良いのだから嫌になる。

「お前は俺の秘書だろ」

意見を譲ってくれそうもないのでとっておきのひと言を投げかける。

「副社長と特別な関係だと誤解されたらどうするんですか?」

それこそ醜聞だ。

求められているのは『恋人役』であって、本物の恋人ではない。

理由があるとはいえ、同居の件がばれたら一大事だ。

「それは願ってもない展開だな」

ククッとおかしそうに口元を綻ばせる。その表情はまったく困っているように見えない。


「……それでは時間もないですのでこのまま一緒に参りましょう」

私たちの言い合いをこれまで静観していた是川さんに絶妙のタイミングで収拾をはかられ、あれよあれよという間に社用車に乗せられてしまった。これではなんのために言い争ったのかわからない。

新調したベージュのフレアスカートのスーツの裾を引っ張る。


なんだか最近、雰囲気に流されてばかりな気がする。こんな調子でいいのだろうか。自立するための独り暮らしのはずが甘えてばかりだ。

実際、私自身の問題はなにひとつ解決していない。

時間の許す限り物件情報を見てはいるが、どれも予算が届かなかったり、通勤には不便だったりと一長一短の状態だ。

このままでは改築工事後には実家に戻る羽目になってしまう。