エリート御曹司と愛され束縛同居

「そっか……」

『だから恩人とも思える遥さんに澪を会わせたかった』

突然話の矛先を向けられて驚く。

「え、私? なんで?」

『お前は人を色眼鏡で見ないし、誰に対しても裏表がない。毎日気を張り続けている先輩の息抜きというか力になって欲しい。身勝手だとはわかっているけどお前にしか頼めない。澪はいつまでも俺の自慢の幼馴染みだろ?』

茶化すように話すけれど、その声は優しい。

言わんとする内容はわかる。

私たちの間に恋愛感情は成立しないし、そんな風にお互いを想う日はこない。それは暗黙の共通認識だ。

「私じゃ力不足でしょ……」

『いや、澪にしかできない。きっと是川さんもそう思ったから、女と知っても打診したんだ。あの人の人を見る目は確かだからな』

普段滅多に私を褒めたりしない幼馴染みにそこまで言われるとさすがにむずがゆくなるし、その責任の重さに居たたまれなくなる。

けれど憧れの恩人を心配する気持ちは理解できる。

「でも恋人役はありえないでしょ?」

『話は聞いてるけど、あの人本当にモテるんだよ。バレンタインデーなんて壮絶だぞ。立場上、女性とは一線を画して失礼にならないように付き合っているけど、相手は諦めないんだ。本命の恋人がいないせいか、四六時中のアピール攻撃に辟易してたよ。勝手に恋人を名乗った女性もいたし、ストーカーまがいの行為もあったくらいだ。恋人役を務めれば澪は当面住居には困らないし問題ないだろ。お前今、決まった相手もいないんだし』

明るく言われて脱力する。しかも相手がいない云々は余計なお世話だ。


モテる人にはモテる人なりの苦労があるのかと納得するとでも? 普段の過保護はどこに消えたの?