『今回は突発的な事態だったからな。後任の人材選びが難航してると社内でも噂になっていて、誰かいないかって秘書課の先輩から相談されて推薦したんだよ。その人の上司が人事資料とか確認したうえでお前を気に入って打診したんだ』

なんでも急を要する事態の時は内部からの推薦で打診したり決定する場合もあるらしい。特に人事にパイプがある場合は話が通りやすいそうだ。

『俺の推薦はあくまでも推薦で決定権はなかったんだ。お前の意思も資質も問われるし、最終的に選ばれたのはお前の実力だ。違う業務に携わるのはいい経験になるぞ』

「そうかもしれないけど、圭太は私を買いかぶりすぎだよ」

『お前、日向不動産株式会社への入社志望動機覚えているか？』

「……急になにを言い出すの？」

唐突に尋ねられて眉をひそめる。


日向不動産株式会社の業務は多岐にわたるが、その中でも個人への住宅販売には力を入れている。

会社説明会で顧客に対する社員の方々の真摯な態度に触れ、感動したのだ。

自宅を購入する機会は一生に一度というお客様がほとんどだ。そのかけがえのない機会を心底大切にしようとする姿勢、お客様の要望にできるだけ寄り添おうとする試みにこの会社に入社したい、と素直にそう感じた。

たとえ直接的ではなくても誰かの役に立つ仕事が、誰かを笑顔にできる仕事がしたい、そう思って勤務してきた。