ほぼ毎朝、副社長を迎えに来るので顔を合わせる機会は多い。

ちなみに副社長の出勤時間は早く、午前八時すぎに家を出る私より早い日もあるくらいだ。帰宅は遅い日がほとんどだ。

さらに是川さんは同居に必要な、生活に関する質問にも丁寧に答えてくれる。

例えば『副社長のスーツのクリーニングはどうされていますか』『お弁当は必要ですか』などといった細々した出来事もすべて教えてくださった。

『尋ねてくださるのはかまわないのですが、たまには直接しつこいくらいに副社長に連絡して問いただしてください』

数日前になぜか楽しそうな表情でそう言われた。

ふたりは上司と部下ではあるけれど、旧知の仲らしく普段から自身の意見も忌憚なく伝えているという。その話から強い信頼関係が築かれているとわかる。

『ええと、お仕事が忙しい様子ですしご迷惑なのではと思うのですが……』

看病してもらってから副社長の印象は変わり、苦手意識は随分薄れているけれど、本人を前にすると妙な緊張感と共に心がざわついて落ち着かなくなる。

伝えたいと思う言葉がうまく出てこない時さえあるくらいだ。

たどたどしく返事をすると、是川さんはゆっくりと眼鏡のブリッジを押し上げた。

『いえ、岩瀬さんは恋人ですのでもっと堂々と接してください』

あの威圧感漂う凄絶美形の副社長に堂々と意見を言うなんて無理に決まっています、そもそも本物の恋人ではありません、と突っぱねたい気持ちでいっぱいになる。

優しい姿を見せられたとはいえ、眉間に皺を寄せて返事をされる回数はとても多いし、やたら不機嫌な表情をしている日だって数えきれないくらいある。