……私、寂しかったのかな。


ひとつひとつは仕方のない事象だったとはいえ、立て続けに訪れた変化に心が疲弊して、悲鳴を上げていたのかもしれない。

小さな子どもでもないのに『寂しい』だなんて少し情けない気もする。

久しぶりに熱を出して心が弱っているのか。

幼い頃から滅多に熱も出さず、風邪もあまりひかなかったのに。

熱を出したのなんていつ以来だろう。しかも倒れてしまうだなんて。

「……口に合わないなら無理に食べなくていいぞ」

出来栄えを心配している様子の副社長に、慌てて向き直る。

「違います……! 嬉しくて感動していたんですよ。副社長がいてくださって本当に助かりました、ありがとうございます」

素直な気持ちを口にするとふい、と目を逸らされた。心なしか副社長の耳が赤い気がする。

「……それならいい」

素っ気ない返答に自然と口角が上がる。

「副社長も召し上がりますか?」

「俺は台所で味見ついでに食べたから不要だ。食べたらもう一度休め」

気遣いの言葉に無言で頷く。

こんな優しさは反則だ。この人の認識を変えざるを得ない。

食べ終えた食器類を私の手から取り上げて、副社長は再び私をベッドに寝かせてくれた。

両親にもここまで甘やかされた経験はなく戸惑ってしまう。

「また後で様子を見に来るから、気にせずに寝ていろ。なにかあったら電話しろよ」

もう平気なので自室に戻ってください、と口にする前に言われてしまう。

ご丁寧に枕元にスマートフォンを置かれてしまう。

確かに広い家だし、台所や自室にいたら声は届きにくいだろう。どこまでも完璧な心遣いに頭が下がる。

胸の奥に湧き上がる温かな気持ちを噛みしめながらこれからの同居生活はうまくやっていけるかもしれないと淡い期待を抱いた。


頬が燃えるように熱いのは熱のせいに違いないと言い訳を繰り返しながら、下がってきた瞼をそっと閉じた。