しっかりしなくては……これはお互いの利益を追求した期間限定の同居なのだ。

ずっと続くわけじゃないし、副社長にはいずれ本物の恋人だって現れる。


きっと思いがけない姿を目にして焦ってしまっただけ、久しぶりに熱を出してしまって気弱になってしまっているだけよ。


力の入らない指を小さく握って、自分自身に何度も言い聞かせる。

ふう、と大きな溜め息を吐くと、副社長が部屋に戻ってきた。

手には小さな土鍋とお碗等が載せられたお盆を持っている。そういえば土鍋を台所の棚の片隅で見かけたな、と思い出す。


「……どうした? 苦しいのか?」

苦い表情を浮かべる私を心配する声に小さく首を横に振る。些細な変化ひとつ見逃さない態度にふいに泣きたくなった。

「……大丈夫ですよ」

「それならいいが、無理をせずに身体が辛くなったら遠慮せずに言えよ。食べれそうか?」

私が頷くと、近くのテーブルの上にお盆を置き、土鍋の蓋を開けてお茶碗にお粥をよそってくれる。

温かな湯気が立ち上って、ふわりと優しい香りが辺りに漂った。夢の中で朧気に感じていたのはこの香りだったのだろうか。

起き上がろうとすると、なにも言わずに慎重な手つきで背中に手を差し入れて身体を起こしてくれた。

さらにベッドサイドに置いてあったクッションをそっと背中にあてがってくれた。

「あ、ありがとうございます」

当たり前のように差し出してくれた手に感謝の気持ちを伝える。

「礼はいらない。ほら、熱いから気をつけろよ」

手渡されたお碗の中には真っ白なお粥と梅干があった。れんげでそっと掬って口に運ぶと優しい味がひろがった。

誰かに作ってもらう温かな食事は久しぶりで胸の奥が熱くなった。

実家で暮らしていた日々が脳裏をかすめる。