「必要ない。知り合いの医者だと言っただろう。病人が余計な気をまわさなくていい」

でも、と反論しかけて副社長の眼光の鋭さに、開きかけた口を一旦閉じる。

「あ、あの私はもう大丈夫なので、どうぞお休みになってください。本当にありがとうございます」

「いや、目覚めたらなにか食べさせるように医者に言われている。お粥を作ったから少しでも口に入れろ」

「お粥、ですか?」


お粥って……副社長が? 私のために作ってくれたの? ……圭太なんて料理はまったくできないのに。


「……初めて作ったから味の保証はしかねるが」

眉間に皺を寄せて言う副社長に思わず頬が緩む。

よく見れば長い指にはいくつかの絆創膏が巻かれていて、ツキリと胸が痛んだ。


……お粥を作ってケガをしたの? そんなに一生懸命作ってくれたの?


目にした事実に胸の奥が熱くなって言葉が出てこない。

「用意してくるから待ってろ」

素っ気なく言って部屋を出ていく後ろ姿に胸が震えた。


本来の副社長はとても温かく親切な人なのかもしれない。幼馴染みが目標とするほどの人物なのだ、そういえば圭太は昔から人を見る目がある。

この人と一緒に暮らすのは、もしかしたら楽しいかもしれない。

毎日起こった出来事や悩み事も相談したりして、寂しさも感じないかもしれない……無意識に頭の中に浮かんできた考えに自分でも驚く。

こんなのはおかしい。

さっきまでこの同居には不安しか感じていなかったのに、一体どうしたんだろう。

熱があって体の節々も痛いのに、どうしてこんなにも穏やかな気持ちになっているんだろう。