もしかして私が熱を出した責任を感じているの? 自分が言い出した条件や辞令のせいだと思ってるの?


「どうして副社長が謝るんですか。謝罪の必要はありません。今回の件は完全に私の体調管理の悪さが招いたものです。気になさらないでください。お疲れのところ看病してくださってありがとうございます」

小さな声で精一杯の感謝を告げると困ったように眉尻を下げた。

そんな表情を目にしたのは出会ってから初めてで、心がざわめいた。

「それでも、その直後に倒れたんだから引き金になったことにかわりはない」

言い切る副社長のほうが辛そうに見えるのは気のせいだろうか。

まさか大企業の御曹司である彼が付きっきりで看病してくれるなんて思わなかった。

数時間前に出会ったこの人は外見こそ極上だが、傲慢で自分勝手な冷たい人だと思っていた。

けれど私を見下ろす目には今も僅かに心配の色が浮かんでいて、綺麗な面差しには疲労の色が滲んでいる。

無理もない、副社長は確か帰国したばかりのはずだ。

自身のほうが何倍も多忙で疲れているはずなのに、私を気にかけてくれている。

心の中に表現し難い温かな気持ちがひろがっていく。

「澪、どうした?」

急に黙り込んだ私を訝しむように声をかけられた。


いけない、こんな調子ではさらに心配をかけてしまう。


出会った頃に感じていた威圧感や冷淡さはもう気にならなくなっていた。

「いえ、あの、診察していただいた料金は後日お支払いしますので……」

慌てて話題を変えるとなぜか仏頂面で睨まれた。