額に触れる誰かの手の感触に安心する。

そっと大切に頭を撫でられている気がする。

ずっと感じていたはずの寒気は和らいで、なにか食欲をそそるいい香りが漂っている。


ゆっくりと重たい瞼を少し開けると目の前に大きな手の平が見えた。


……誰だろう。


「……圭太?」

無意識に幼馴染みの名前を呼ぶと、低い声が耳に届いた。

「残念だが、圭太はここにはいない」

素っ気ない言い方に瞬きを数回繰り返すと、端正な面差しに不機嫌な表情を貼り付けた副社長が眼前にいた。

私の額の上には大きな手がのせられている。

「な、なんでここに副社長が……?」

近すぎる距離に思わず声を上げると、喉の奥が微かに痛んだ。

周囲に視線を彷徨わせると、ここは八畳ほどの広さがある私の部屋だとわかった。

見覚えのある家具類とふたつの大きな窓にかかる淡いミントグリーンのカーテンが目に入る。なぜか私は自室のベッドの中にいた。

「どうしてベッドに……? 私、確かリビングにいて……」

その続きをまったく思い出せない。

考えようとすると頭に鈍痛がはしる。思わず起き上がろうとすると、くらりと目眩に襲われた。

「危ない、まだ熱が下がっていないんだ。無茶をするな」

後ろに不安定に傾きかけた身体を、がっしりとした腕が受けとめてくれる。

ふわりと漂う香りになぜか鼓動が速くなる。

ゆっくりと身体をベッドに横たわらせてくれる。

口調も表情も厳しいのに、私に触れる手は驚くほど優しい。