「もちろんそれはかまわないけど、どうして? 両親には既に話してしまったんだけど……」

「おじさんとおばさんや凪さんたちはかまわないよ。一応口止めしてもらえたら。遥さんはとにかくモテる上に九重グループの人間だろ? 熱狂的なファンというか自宅を知りたがっている人が多くてさ」

困ったように言う幼馴染みに合点がいく。

独り暮らしの女性の家に見知らぬ人が訪ねてくるのは恐い。

たとえ訪問相手が女性であったとしても。配達といった正当な理由のあるものではなく、ファンだというだけで押しかけられるのも恐いし、ほかの住民に迷惑にもなる。

「だから万が一、マンション付近で遥さんについて質問されても知らないと言ってほしいんだ。それが直接の理由ではないけれど、そういった出来事が引き金になって数回引っ越しもしてるから」

そういった経験があるなら名を伏せてほしいのも当然だろう。

元々遥さんは幾つか物件を所有していて、そのうちのひとつに自身が住んだり貸したりしていたらしい。なかには売却しているものもあるという。

熱烈なファンがいるなんてすごいと思うけれど、節度もなく追い回されると大変だ。

「任せて、もし怪しい人が来ても撃退するから」

力強く返事をすると、それは危ないからいいと真剣な面持ちで断られた。

その後、設備の説明やごみの出し方などを教えてもらった。

部屋の片隅には幾つかの段ボール箱が置いてあり、渡米準備をしているのだなと思うと少し寂しくなった。