「まあな、都内のこの場所にわざわざタワーマンションではない集合住宅を建設したくらいだから」

困ったように眉尻を下げて言う。

タワーマンションではないからといって、高さがないとか眺望や日当たりが悪いというわけではない。

周囲を植栽や駐車場で使用し、広い敷地を有しているため日照を遮るような高層建築物が間近にないだけだ。

この一等地によくこれだけの場所があったなと感心する。

このマンションは八階建てで部屋は最上階。しかもワンフロア全てが彼の部屋だ。

一階のエレベーターホールももちろんゆったりとしていて、自宅の鍵を持っていないとエレベーターに乗れないという、徹底したセキュリティだ。

実際に自分が暮らす前提として見学すると畏れ多くなってしまう。部屋のなにかを破損したら、弁償できる気がしない。

私の怯えを察したのか、自宅の玄関ドアを開けてくれた幼馴染みが肩を竦める。

「そんなに緊張しなくて大丈夫だって。澪が遥さんと住むわけでもないんだし」


遥さん? オーナーさんって女の人なの?


「名前、遥さんって仰るの?」


まさか彼女とかじゃないよね?


「うん、九重遥さん。俺たちの二歳年上で仕事もできるし、憧れの先輩なんだ」

圭太がここまで人を褒めるなんて珍しい。きっと素敵な人なんだろう。

「その人に恋人はいるの?」

恋人なの、と直接的には尋ねにくいので婉曲的に質問する。

「恋愛より仕事、の人だからな。婚約者候補は山のようにいるって話を以前に聞いた気がする」

興味がなさそうに曖昧な答えをくれる。


その口ぶりから察するに恋人ではないのか。でも遥さんはどうなんだろう? 恋愛感情はないのだろうか? 


同じ会社で部屋も貸してる仲だし……けれども今日まで遥、なんて女性の名前は幼馴染みから聞いた記憶がない。