「そこ、賃貸でしょ? どうして圭太がわざわざ次の借り手を捜す必要があるの?」

素朴な疑問がわく。

圭太は今のマンションに去年引っ越したばかりのはずだ。大学卒業と同時に独り暮らしをしているけれど、これまでに何度か引っ越しをしている。

『ここ賃貸じゃないんだ。同じ会社に勤務している大学時代の先輩が持ち主で、海外赴任中だから借りてるんだ』

「そうなの? 知らなかった」

圭太は日本で一番難しい国立大学を卒業している。

『家って人が住まないと傷むだろ? 先輩が仕事で帰国する時に自宅に置いたままの荷物を取りに来る場合もあるから、留守を預かるような感じで住んでるんだ。って言っても俺も出張が多いし、先輩も多忙だから実際に会うのは年に数回もないけどな』

確かに圭太はよく出張で全国津々浦々を訪れている。そのため私も学生の頃ほど、会っていない。

「それで代わりに住んでくれる人が必要なんだ」

『そう。ちょうど誰か捜さなきゃいけないって思ってたんだ。澪なら安心して引き渡せるし』

機嫌よく言われて、段々気持ちが上向きになってくる。

もしかしたらすごく運がいいかもしれない。