再び頭を抱えた。

電話の向こう側からガチャリとドアを開く音がする。どうやら自宅に着いたようだ。

「……おかえり、お疲れ様」

『ただいま、ありがとう。なあ、澪。俺、お前の力になれると思うぞ』

「……どういう意味?」

思わずベッドに座り込んでいた態勢を整える。

『俺も近々異動になりそうなんだよ。で、この家が空き家になるんだ』

淡々と言う圭太。


空き家になるって……引っ越すの?


「関西や九州にでも転勤するの?」

『いや、アメリカ』

あっさりと言われて驚く。

「アメリカ!? 海外じゃない。なんでそんなところに急に行くの?」

『急じゃないんだ。前々から海外の支社に行くようには言われてたんだよ。もちろん業務上で必要な措置だけど、なにより今後の勉強にもなるからさ』

迷いなく話す幼馴染みの声はどことなく大人びていて、まるで知らない男性のようだった。

こういう時、圭太はやはり御曹司で跡継ぎなのだなと思う。自分がなすべきことや責任をきちんと理解している。

普段は私の心配をしてくれたり好みの女の子の話をしていたりで、そんな素振りは一切見せないけれど、有能さは長い付き合いで嫌というほど知っている。

早ければ再来月中にはアメリカに赴任する予定らしい。

つまり現在暮らしているマンションが空き家になるので、住む人を捜していると言う。