……頭が痛い。どうしてこうも唐突なんだろう。


最早、この鬱憤を誰に伝えていいかわからず、両親への挨拶もそこそこに自室に引き上げた。

背後から母に三カ月以内にはマンションに引っ越すわよ、と言われたけれど返事をする気力は既になかった。


自室に入り、ドアを閉め、ごろんとベッドに横になった。真上に古い木の低い天井が見えた。

両親の主張は一理ある。

この自宅は設備も老朽化しているうえに冬は寒いし、夏は暑い。

今なら断熱材ひとつとっても現在の我が家の設備より優れたものがたくさんあるはずだ。

さらに兄夫婦がすぐ近くにいてくれたなら、色々な意味で両親も安心するだろう。

ふと思い立って起き上がり、バッグに入れっぱなしになっていたスマートフォンを取り出し、幼馴染みに電話をかける。

現在午後十時前、多忙な圭太もさすがに帰路についているだろう。

『澪? こんな時間に珍しいな』

呼出音数回で圭太がでた。明るい低音が響く。

ザワザワと人の話し声が聞こえるが、まだ外にいるのだろうか。

「圭太……私、絶体絶命なんだけど」

神妙な声で呟くと、幼馴染みの声が真剣なものにがらりと変わった。

『どうした!? なにかあったのか? 今どこにいるんだ?』

どうやら心配してくれる気持ちは変わっていないようでホッとする。

「自分の部屋にいるわよ。まだ帰ってないの?」

『今、マンションのエントランスに入った。それより絶体絶命ってなんだよ?』

途端に周囲の喧騒の音が消えて、声がはっきりと届く。