「だったらどうして辞令が出ているなんて……」

「秘書から報告を受けたに決まっているだろう」

「どうして子会社の私が異動なのかを教えていただきたいんですが」

できるだけ落ち着いた声を出して話す。

この人は私が聞きたい話をわかっていて、わざとはぐらかしている。

その余裕がどうにも腹立たしい。

「圭太に推薦されたんだよ。お前なら俺の秘書も務まるってな。まあ、当時はお前を男だと誤解していたが」

どうやら前々から秘書課に私を転籍させたらどうかと進言していたそうだ。


……圭太、今度会ったら覚悟しなさいよ。


心の中で固く誓って、ギリッと奥歯を強く噛む。

今日だけで幼馴染みに何度翻弄されたんだろう。

まったくとんでもない推薦をしてくれたものだ。

なぜ私に秘書が向いているなんて思ったのか甚だ疑問だ。


あれ? でも今、聞き捨てならないことを言ってなかった?


「あの、俺の秘書とか聞こえたような……?」

恐る恐る尋ねると、それはそれは魅惑的に口角を上げる副社長がいた。

「退職したのは俺の秘書のひとりだからな、俺に秘書が必要なんだよ」

『俺』を強調するかのように繰り返し言われて、反応が遅れる。

「そ、そんな話は聞いていません」

「今、初めて言ったからな」

なにか問題か、とでも言いたげな端正な面立ちを睨む。


どうしていちいちこの人はこんなに神経を逆撫でする言い方ばかりするの?