「父さん、俺に話をさせてほしい」

お世辞にも機嫌がいいとは言えない表情で兄が口を開く。

父は困ったような表情を浮かべながらも了承した。

「澪、俺が以前に話した内容は覚えているか?」

「……う、うん」

「お前の気持ちを九重さんにきちんと伝えて、ふたりで将来について話し合ったのか?」

普段とは違う真剣な兄の声に、すうとひとつ息を吸い込んだ。

「……話し合ったよ。遥さんと一緒に生きていきたいの」

「九重さん、あなたのお気持ちは電話で伺っています。今もその気持ちに変わりはありませんか? 正直、あなたほどの方ならほかに魅力的な条件の女性は大勢いらっしゃるでしょう。それでも妹を選びますか?」

「私には澪さんが必要です。澪さん以外の女性には心惹かれません」

迷いのない物言いに胸が熱くなる。

泣きたくなるほど優しい目が私を見つめる。


「ほかの誰でもない、澪さんを一生愛し守りぬくと誓います。どうか結婚を認めてください」


そう言って静かに頭を下げる。

私のために申し入れてくれる姿に涙が自然とこみ上げた。

共に頭を下げて両親と兄に許しを請う。


「……今まで黙っていて心配をかけてしまってごめんなさい。でも本当に遥さんが大切で、一緒に生きていきたいの。どうか許してください」