小さく首を横に振った。

同じ人を好きになった者同士、気持ちが痛いほどわかる。

自分だけを見てほしい、好きになってほしいと思うのは当然で、仕事や取引を絡めざるをえない程必死だったのかもしれない。

結局ひとりで抱えて悩んで庇ってもらってばかりの私とは違う。

もっと毅然と前を向くべきだったと今さらながらに考える。

遥さんを譲れない私が願うのは傲慢かもしれないけれど、桃子さんには一緒の道を共に幸せに歩める人を見つけてほしい。

そう伝えるとほんの少し遥さんの表情が緩んだ。

「……相変わらずお人好しだな、わかった、この件はできるだけ穏便に済ませるようにするが今後お前に接触しないよう厳重に申し入れはする。それとお兄さんに挨拶に行く件も譲らないぞ」

「ほ、本気なの? ……迷惑じゃないの?」

「なんで迷惑なんだ?」

先程よりもさらに渋面を浮かべる声は普段よりさらに低い。

「だってこんな無理強いみたいで……」

「結婚したいと切望している恋人の家族に会いに行けるのはこのうえない幸せだ。忘れているかもしれないが、俺は以前から挨拶に行くと言ってただろ?」

意味がわかっていなかったのか?と付け加えられて胸が震えた。

揺るぎない態度に涙が一粒零れ落ち、胸のつかえがとれた気がした。


「澪、愛してる」


紡がれた言葉は甘美で、抱き締められた腕の中は温かく、世界にたったひとつの居場所を見つけた気がした。

ドキドキして落ち着かないのになぜこんなにも安心して、心地よいのだろう。


「今日からはなにを言われても寝室を一緒にして眠るからな? もう遠慮しないし離さない」


耳元で色気たっぷりに囁かれて鼓動が壊れそうな音を刻む。

そのまま顎を掬われて唇を奪われ反論する術をなくしてしまった。