「だ、ダメですっ、まだ勤務時間中ですし仕事が……」

そう言ってここが副社長室だという衝撃の事実に気づく。


仕事場でなんて真似を……!


サーッと血の気がひいていく。そんな私を見てクスクス声を漏らす。

「呼び出したのは俺だし、なによりの最優先事項だぞ?」

悪戯っぽく片眉を上げるその仕草が艶やかで見惚れそうになる。


まったくもう、どうしてこんなに色気があるのよ……!


対する私には余裕なんて欠片もなく、現実とは思えないし、もう心臓が壊れそうだ。


その時コンコン、と控えめなノックの音が響いた。

「副社長、そろそろ私の部下を返していただけますか?」

扉越しに聞こえる室長の声に遥さんは渋面を浮かべる。

「もう少し独り占めしたかったのに、タイミングが悪いな」

不服そうに呟いて、そっとつむじに軽いキスを落とす。

「時間切れだ。続きは帰ってからな」

「し、失礼します!」

身体中に熱がこもり、急いで一礼をして副社長室のドアを開けると、これまた渋面の室長がいて、自席に戻るように指示を出された。

閉められたドアからはクスクスと大好きな人の声が漏れ聞こえていた。


ああ、もう絶対にばれている。まだまだ問題は山積みなのにこれからどうしたらいいんだろう。