微妙な私の表情の変化に気づいたのか、副社長は優美に口元に弧を描く。

「今思えばお前にマンションで会った瞬間、恋をしたんだと思う。だが初めての感情に戸惑って納得できなかったんだ。そもそも恋愛感情を元々信じていなかったから」

「……うん、なんとなくわかる」

あの日の遥さんの姿を思い出す。威圧感漂う姿は恐いくらいだった。

「だからまずは冷静に自分の気持ちを見直そうと思って『恋人役』を打診した。同居の話を澪から持ち掛けられた時は驚いたが、そのおかげでさらによくお前を知る機会を得れた。結果として、ただお前を想う気持ちを増長させるだけだったけどな」

抱きしめたい衝動を抑え込むのが大変だったと呟かれて、頬が熱くなる。

「澪には澪だけが持つ力と魅力がある。ずっと傍にいてほしい、俺だけのものになってほしいんだ……誰かにこんな気持ちを抱くのはきっと俺の人生において最初で最後だと思うから」

顎からゆっくり指を離し、クシャリと長めの前髪をかき上げる困ったような表情が真実を物語っていた。

どんな時も冷静沈着で完璧なこの人らしくない、初めて目にする態度。

そのすべてが愛しくて胸の中に熱い気持ちが込みあげていく。

ポタリと涙が瞬きを忘れた目から一粒零れ落ちた。頬に大好きな人の優しい指が触れる。


「……なんで泣く?」


「……あなたが大好きだから……!」


本当はもっとうまく伝えたかった。

どれだけ好きで、大切か、どんなところが愛しいかを言いたいのに、胸が詰まってなにひとつ言葉にできない。