「本当に……? 私、でいいの? なんの力もないのに?」

どうしても自信のなさが口をついてしまう。

小刻みに震えそうになる指をギュッと握りしめる。壊れそうな鼓動がうるさくて彼に聞こえてしまいそうで恐い。

「澪が女ですべてはお互いの誤解だとわかって正直戸惑ったが、不思議と違和感はなく出会うべくして出会った気がしてた。厄介だと思ってもなぜか目を離せなくて日を追うごとにお前に惹かれていく自分に気づいて愕然とした」

「え……?」

「理由なんかなかった。自分の気持ちを認識してからは、俺だけのものにしたいと切望した……そんな感情は初めてだった。女なんて誰も皆同じで、所詮外見や背後にあるものしか見ていないと思っていた。そのうち見合いでもするんだろうと結婚に期待なんかしていなかった」

「……それは付きまとわれたりしてたから?」

「圭太に聞いたのか?」

躊躇いがちに頷く。

「ごめんなさい、あまり詮索されたくないよね」

「いや、お前にならいい」

そう言って遥さんは表情を崩して髪に小さくキスを落とした。

「この外見のせいか一方的に勘違いされる場合も多かったが、相手と同じ気持ちをいつも返せなかった。年を取るにつれて仕事関係の付き合いも増えて邪険に扱うわけにもいかず当たり障りなく接していたら王子様、だなんて呼ばれる羽目になって……いつからか、女性の前で本音を話せなくなった」

「……遥さんには遥さんの葛藤があったんだよね」

「そんなたいそうなものではないが、澪は初めて会った時から違ってた。素の俺を見て驚きも、物怖じもせずに真正面からぶつかってくるお前に興味をもったんだ。それにお前は誰の前でも俺への態度をまったく変えないし、媚びることもなかった」


それはまったく年頃の女性らしく、秘書らしくないと言われているような気がするんだけど……。