月夜に笑った悪魔



頭に突きつけられた拳銃。

男は私の足から手を離し、手から持っていたものを奪うと嘲笑った。


「こんなんにひっかかるわけねぇだろ。ひっかかったフリだよ、フリ。自分から出てきてくれるかと思ってさぁ」



その言葉でわかった。
この男は、私の正確な位置までちゃんとわかってて、わざと……。


「せっかくコレ持ってるのに使わないなんて、かわいーオンナだな」



“コレ”というのは、さっきまで持っていて奪われたカッターナイフ。




……それは、どうしても私には使えなかった。


私には、覚悟が足りなかった。
誰かを刃物で傷つける覚悟なんて最初からなかったんだ。


使わないと自分が死ぬかもしれないのに……。




「あぁ……早く殺してぇなぁ」


つぶやくように、ぽつりと男の口から溢れ出る。
そのあと……急に拳銃は頭から離されて。



ぽいっとカッターナイフを地面に投げ捨てると、拳銃を持つ手とは反対の手で首をつかまれた。