「バカなオンナ」
近くで見える、月城岳の背中。
その男はスマホを置いた茂みに向かって銃を向け……。
もう、今しかないと思った。
精一杯、足に力を入れて私は木の後ろから出て。
その後ろ姿、男の下半身に向かって足を振り上げた──その時。
男は瞬時に後ろを振り向いて、私の足を軽々とつかんでとめた。
「ほんと、バカすぎ」
にやっと気持ち悪いくらい上がる口角。
私はこの時……今日、はじめて月城岳の顔をちゃんと見た。
白髪でマッシュ頭の、黒服に身を包んだその男性。
ゾワッと鳥肌がたって、目が合えば一瞬にして体が凍りついたように動かなくなる。



