月夜に笑った悪魔



……どうしてだ。
なんで、こんな一瞬で気持ちが変わってしまうのか……。


月城組の人に捕まって、死ぬかもしれないと本気で思って……精神が極限状態になっていたからだろうか。


そうだ。


死ぬのは怖い。
1人も怖い。

だから私は、暁が来てくれたから命が助かる、と安心しただけだ。






「遅くなって悪かった」


暁は自分のシャツの袖で私の目元を拭ってくれる。


それから自分のポケットから彼はなにかを取り出して。
それを広げると、私の右手に巻つけようとする。


彼が持っているものは……黒色のハンカチ。





「優しくしないで……」


小さく声を出して、ハンカチを手に巻き付けられる前に彼の手を振り払った。


ぱさりと地面へと落ちたハンカチ。
彼はそのハンカチをすぐに拾い上げて、汚れを落とした。




手を振り払ったのは……ほんの少し、冷静になれば悲しくなったから。


確かに、暁が来てくれたから命が助かるのは嬉しい。


助かるのは嬉しいけど……このまま助けられたら、私はあんまり大切じゃないけど仕方なく助けられた女になってしまう。


一条組の家に帰っても、私は暁にとって“芽依の次に大切な女”であることには変わりないし……悲しいだけだ。