ついさっきまで、なにも音も気配もしなかった。
それなのに今は……確かに、私の左どなりに誰かいる。
い、いつの間に……。
……もう、だめだ。
凍りついたように動かない体。
横すら見れない。
ただ固まっていれば、顔を覗きこまれて。
目に入ったのは……
「見つけた」
見慣れたシルバーの桜のピアスをつけた、黒髪の男性──……暁。
……あか、つき?
え……ホンモノ?
少し息を乱しながら、彼は私の横にしゃがみ込んだ。
それから口元を覆っていた手が離れ、血が出ているほうの手にそっと触れられる。
「おまえ、手……」
……ちゃんと、触れられてる。
……本物だ。
本当の本当に、暁だ。
ぽろぽろと溢れ出る涙。
……私より芽依を大切に思ってる人に助けられたくなかった。
絶対に自分でなんとかしてやる、ってさっきまで強く思ってた。
でも、今は……暁が来てくれて嬉しいと思ってる。
息を乱してまで、走って私を探してくれて嬉しい。



