「……まぁいいわ、一条組の女もいい人質になるからね。持ち物はぜんぶそこに置いて、ゆっくりこっちに来て」
私は言われた通りに持っていた鞄をぜんぶ置いて。
それからゆっくり、2人のほうへと足を進めた。
私が近くまで来ると芽依は離されて、今度は私に突きつけられたナイフ。
「行きましょうか」
腰にまわされた手。
女性は私に密着すると、反対の手でナイフをチラつかせた。
……ここから出て、目立たないようにするためか。
強めに背中を押されて歩き出して、トイレを出る。
出たところで、トイレ周辺にはひとけは特にない。
この女性の仲間は少なくともここにいないから、芽依はきっと大丈夫。
……私は、どうするか。
助けが来てくれることを信じて待つか、自分でどうにかするか。
芽依が暁たちに知らせたら……暁は芽依が無事でよかったって思うんだろうな。
やっぱり芽依ばっかり構うってことは、暁は芽依のほうが大切だってこと。
攫われたのが私でよかった、って少しくらいは思うんだろう。
……そう思ってる人に、助けてもらいたくもない。
絶対、自力でなんとかしてやる。
とにかく、隙を見て逃げるしかない。