キーンコーンカーンコーン──



始業を知らせるチャイムが鳴り響くのを待って、先生は教卓に立つ。



都立縞麦高校、2年1組。


担任の鍋屋先生─ナベさん─が先頭に立つこのクラスでは、”例の噂”が広まった原点でもある。



それは数ヶ月前のこと───


「ねえナベさーん、西校舎ってなんで入れないのー?」


クラスのとある女子が、出欠確認の声を遮って唐突に投げた疑問。

この一言が、きっかけだった。


「あー、そーいやお前ら知らねーのか。あの事」


「あの事?」


「西校舎はな・・・出るんだよ」


「なにが?」


「幽霊」


「え、まじ?」




生徒が食いついたと見ると、先生はさっさと出席簿にチェックを付けて語りだす。



「あの校舎はな、2年前から使われてねえんだ。
使われてるのは・・・そうだな、肝試しの時くらいか。

男の子の霊だよ。3年前、この高校に通ってた男子生徒が事故で死んでな・・・


そいつは、本とピアノが大好きだったんだ。
昼休みになると、いつも音楽室か図書室にいた。
そいつのピアノは、すっげぇ綺麗だった。才能があったんだよ。

でも不慮の事故で死んで、未練があんだろうな。


西校舎にある第一音楽室か図書室に、よく出るようになったんだ」



幽霊についてやけに詳しいから、私は当時とても違和感があった。

その違和感は、他の子たちも感じたようで。



「なんでそんな詳しいの?」


「──俺は噂好きな男だからな!」



そう言って、少し寂しさを隠すように笑った鍋屋先生の顔は、今でも忘れることができない。