7.ミスの謎

「矢田さん、私今月から思い切ってフラワーアレンジメント習い始めました」

お昼休み、買ってきた弁当をカフェブースで広げている私の隣に座った萌が少し恥ずかしそうに告げた。

「そうなんだ。いいじゃんか。忙しいだろうけどがんばって!」

私は箸を置き、彼女の肩を軽くポンポンと叩く。

「矢田さんから言ってもらった、何でも思い切って始めたら前に進むものだっていう言葉が私の背中を押してくれました」

「アドバイスなんて所詮他人事。そうしようって決めたのは萌なんだから、自信もってつき進んで」

「はい、ありがとうございます」

萌は座ったまま私に頭を下げると、小さな手提げバッグから赤いギンガムチェックのナフキンで包まれた弁当を取り出す。

「手作り弁当なんて、本と頭が下がるわ」

弁当には小さなハンバーグと卵焼き、そしてブロッコリーが添えられていた。

「昨晩の残りを入れただけです」

萌は楽しそうに笑った。

あー、よかった。この間は悲壮な顔をしていたけれど、今日の萌はとてもすっきりと爽やかな顔をしてる。

フラワーアレンジメントを思い切って始めたことも幸いしてるのかな。

あ、そうだ、思い出した。

翔からの萌への少し突き放したようなアドバイス。

「あれから立花さんとはどう?」

弁当に入ってるしわしわのウインナーを箸でつまみ口に入れながら尋ねる。

「はい、あまり変わりはないですが、仕事に慣れてきたこともあって以前ほど残業はしなくてよくなってます」

「そっか、よかった。相変わらず、無茶ぶりされたりはしてない?」

ブロッコリーを箸で掴んだまま萌の手が止まる。

「総務会計のUSBが見当たらないってずっと探していて、立花さんは私に預けたと言うんですけど私は預かってないんです」

「預かってないのに?」

「ええ。確かに先週引き継ぎでお借りしましたが、自分のUSBに入れなおしてすぐに立花さんに返したんですがそのあとからないらしくて……」