先に渡されたメニュー表を広げる。

ふぅん。イタリア料理の一般的なメニューはほとんど見当たらない。

なんとかのシチリア風だとかバルサミコを利かせた魚介スープだとか。

いつもこういう店では、何頼めばいいのかよくわからないと言って翔は決まってフルコースを頼んだ。

大抵、その店のお得意料理が出てくるフルコースは間違いないんだよね。

翔と出会ってから、私も頼むのが面倒な時はフルコース。

ま、結局のところ、会話がメインでフルコースであろうがそうでなかろうが、私達にはほとんど関係ないんだけど。

テーブルの上に置いていたスマホのLINEの着信音が鳴ったので見てみると、翔からだった。

【ごめん。少し仕事が長引いて遅れてる。あと15分ほどで到着するから 翔】

こういうところはいつも律儀。

別に15分の遅刻なんてどってことないのに。

【はいはーい。先に酒盛りして待ってます 美南】

そんなふざけた内容で返信して、ワイングラスに注がれた水を口に含んだ。

15分と言っていたけど、結局LINEの8分後に店に到着した翔は私のグラスに視線を落とすとニヤッと笑う。

「おいしそうな透明のお酒だ。もう出来上がっちゃった?これからおいしい赤いお酒を飲もうと思ってたんだけど」

「いいえ、まだまだ。宵はこれからだわ」

私は挑発的な言い方で翔を軽く睨んで笑った。

「遅くなってごめん」

翔はようやく真面目な顔で謝ると、私の正面に座る。