「美南のSNSの視点がとてもユニークで目をひいたんだけど、石垣の話を聞いて合点がいったよ」

「どういうことかしら?」

私は頬を膨らませて軽く翔をにらんだ。

「例えば大阪城でもさ、君が興味惹かれたのはかつては漆塗りで大量の金が使用されて豪華絢爛な城だったのに思いを馳せていただろう?一見目に見えるその向こうを見ようとするのは美南独特だから面白いと思う」

「それもおばあちゃん譲りかもしれないわ」

もうすぐ退院する祖母と今度こそは姫路城に行けるだろうか。

今年で83歳になる祖母は、最近一気に足腰が弱くなり、骨折したり肺炎を起こして入院することが増えた。

年だからしょうがないけれど、やっぱり寂しい。

元気な祖母が当たり前だったから。

翔は腕時計に目をやると、私に向き直り言った。

「俺、明日の朝早いんだ。これから最終で帰るよ」

「そうなの?」

なんだろう。なんだか胸がキュッと締め付けられる。

手帳を取り出した翔が何やらサラサラ記入すると、そのページを破って私に手渡した。

「これ俺の連絡先。まぁ今夜限りって言ってたから処分してくれてもいいけどね」

彼は少し照れ臭そうにうつ向くと、椅子の背にかけていた上着を羽織り立ち上がる。

「また会えてよかった。元気で」

「あ、はい。あなたも元気で」

翔は大きなリュックを背負うと右手を挙げ軽やかに店を出ていった。

彼のいなくなった席はぽっかりと寂し気に口を空けてるように見える。

翔とは今日初めて出会ったはずなのに、昔から知ってるみたいに色んな話をして、正直楽しかった。

こんなに初対面で打ち解ける人ってこれまでいなかったよな。

ある意味貴重な出会いだったのかもしれない。

彼の連絡先が書かれたメモをそっと握りしめた。