1.彼と彼

部屋に入った途端、唇を奪われ、彼の指が服の上から私を弄ぶかのように妖しくなぞっていく。

先月27歳になったばかりの私も、こんなことは初めてじゃない。

それなりに男性の経験もあるけれど、いわゆる『官能的』って彼のような愛し方を言うんじゃないだろうか。まるで映画のワンシーンみたいな感じ。

彼は見た目もとても美しい男性で、無造作に垂れ下がる前髪の奥に光る野性的な眼差しに見つめられたら世の女性は誰もがその魅力にとりつかれるんじゃないかと思う。

しかも180もある高身長のエリート外科医ときたら、いずれにせよ誰もが文句のつけようもない。

私をベッドに座らせた彼は白いシャツを脱いだ。その背中はほどよく筋肉がつき彫刻像のようにとてもきれいだと、思わず感嘆がもれそうになる。

彼は再び私の体を抱き締め、色気たっぷりの視線を私に向けたままベッドに押し倒した。そして、私の判断が追い付かないくらいの勢いで彼の柔らかい唇が私の首筋から胸元に這っていく。

どこかで冷静にその状態を受け止めている私は、なぜだか彼の瞳の向こうに深い影が見えたような気がした。

何かを忘れたい一心で私を今抱いているような。

気のせいだとは思うけれど、そんな風に考えてしまうのも、私自身未だにそんなハイスペックで素敵な彼と付き合ってるという実感がないからだろう。

あれは、丁度2か月前のことだったっけ。