「悪用されるどころか、夏歩にはいいことしかないじゃない。むしろありがたいくらいの気持ちがあってもいいくらいよ」

「いや、でも!朝は寝てる間に勝手に入ってくるんだよ?仕事終わって帰ると既にいるし、私の知らない間に部屋の中掃除したり、勝手に洗濯までするんだから」

「鍵を持ってるんだから、そりゃあいつだって自由に入って来るでしょ。掃除も洗濯も、夏歩がやらない、もしくはやっても雑だから、津田が見かねてやってくれてるんじゃないの?」


必死で訴える夏歩に対して、美織の返しは冷たく取れるほどに冷静だ。

いや、でも……!と夏歩が更に言い募ろうとすると、それを遮るようにピピっとタイマーの音がした。

音を出しているのは美織のスマートフォンで、「おっ、出来た出来た」と美織はタイマーを止める。

休憩室のポットからお湯を注いで作ったカップスープを、美織はプラスチックのスプーンでかき混ぜる。

偶然にも夏歩の本日の朝食と同じトマトのカップスープは、くるくる混ぜると中からマカロニが出てくる。


「あたしには、なんの問題もないようにしか思えないけどね。何でもない他人に鍵を持たれてるって状況が嫌なら、もう付き合っちゃえばいいじゃない。それで問題解決」

「どこが解決!?」


夏歩にとって、それはちっとも解決ではない。