「うん、いい感じ。あんまり素敵なハネ方だったからてっきりわざとなのかと思ったよ。鏡で見えなかった?」
「……見えてたらちゃんと直してた」
本当は、寝起きでぼーっとしていたのでよく見ていなかったと言うのが正解だ。言わないけれど。
「て言うか、よくもひとの髪に気安く触ってくれたな」
「何それ、どういうキャラ?」
なんとなく夏歩も失敗した気はしていたので、それ以上は続けずに可笑しそうに笑う津田からふいっと視線を逸らす。
「ああ、そうだ。今日の玉子は、一応半熟のつもりで焼いたから、零さないように気をつけて食べてね。でないと、行く前にまた着替えなくちゃいけなくなるよ」
本日のメインであるところの、目玉焼き載せトーストを指して津田が言う。
トーストだけを皿から持ち上げていた夏歩は、その言葉にそっと皿を引き寄せ、更に自分も少し前に出た。万が一黄身が零れても、服ではなく皿が汚れる程度で済むように。
津田は“一応半熟のつもり”なんてハードルを下げた発言をしてくれたけれど、黄身の部分に薄く張った白い膜を歯で破った時、中はちゃんと半熟だった。
外側は火が入っていて、中に行くほどとろとろ。強めに振られた塩胡椒の加減も抜群だ。



