腰は下ろさず、テーブルの上に手を伸ばしてそこにあるものを摘まみ上げると、キーホルダーのようにつけていた指輪をそっと外して、ポケットから取り出したケースに大事そうにしまった。
「……普通さ、その箱に入れた状態で渡すよね、指輪って」
現実はどうだか夏歩は知らないが、少女漫画やドラマなどでは、箱をパカッと開けて指輪を見せ“結婚してください”が定番だ。
津田はしばらく箱をジッと見つめ、やがてその視線を夏歩に移すと
「そんな普通すぎる感じだと、なっちゃん素直じゃないから絶対受け取ってくれないと思ったんだけど……そっちの方が良かったなら今からでもする?」
言いながら、津田はテーブルを挟んだままの位置で床に膝をついて箱を構える。
このまま開けちゃっていい?との問いに、夏歩は「いいわけあるか!」と返した。
「誰が今やれって言った!普通はそうなんじゃないの、って言っただけだから」
「それは、やって欲しいっていう遠回しな訴えじゃないの?」
「違う!!もういいから、早くそれしまって。で、とっとと帰れ」
「つれないなー。まあ体調悪くて弱ってるよりかは、それくらい元気な方がなっちゃんらしさが大いに出てていいけど」



