「あれから、何か津田との間に進展はあった?」

「あるわけないよ、そんなの」


“あれ”とは、夏歩が珍しく体調を崩して休んだ日のことで、次の日の朝にはもうすっかり体調が回復した夏歩は、それからまた当たり前のように訪ねてくるようになった津田の手作り弁当を持って出社し、お昼休みには美織とテーブルを囲んでお喋りに花を咲かせ、帰宅すれば津田と晩ご飯を食べるいつもの生活に戻っていた。

今日ももちろん、休憩室で美織と二人で囲むテーブルの下、夏歩の膝の上には津田の作ったお弁当がある。


「まだ何もないの?今度こそ手を出し放題、絶好のチャンスだったのに」

「……今度こそって、珍しく具合が悪くて寝込んでたんですけど」

「チャンスはチャンスだからね、無防備だったし。ここで既成事実を作っておけば……」

「……そこで手を出して来たらそれはもう人じゃない。人として大事なものが欠けてる」


なるほどね、と頷いて、美織は“特性キャロットソースのシャキシャキサラダ”なるものをフォークでかき混ぜる。


「でもそうすればようやく二人の関係も前進、いや、付き合う過程すっ飛ばして結婚もあり得るから、むしろ躍進だったのに」


大躍進と言っても過言じゃない、なんて言う美織に、夏歩はジト目を向ける。