(ほんと、諦めないなあ、津田くんも……)


自分のことなのに、まるで他人ごとのように心の中で呟いて、夏歩はもぞもぞと布団から目だけを覗かせる。

二度寝をするつもりだったのに、時間を確認したら思いがけず目が覚めてしまった。

こちらに背を向けてキッチンに立っている津田は、二口コンロに鍋とフライパンをセットし、電子レンジを稼働させ、弁当箱にご飯を詰めたりと、忙しそうに、でもなるべく音を立てないように気遣いながら、テキパキと動いている。

その背中を、夏歩はぼんやりと見つめる。

付き合うのなら好きな人がいい。津田は嫌いではないが好きでもない、だから付き合わない――そう、何度も何度も言ってきた。本人にさえ、はっきりと。

それなのに津田は諦めない。ここに来て運良く鍵を手に入れてしまったことも、もしかしたら津田を勢いづかせるのに一役買ってしまったかもしれないが、とにかく津田は諦めない。

訪ねてくる度鍵を取り戻そうとしていたのも、いつの間にかどうせ無駄だとやめてしまった。

津田の作った朝ご飯を食べて、津田の作ったお弁当を持って出勤して、帰ってくれば津田の作った夕飯が待っている。