「ねえ、なっちゃん。シチューとロールキャベツだったらどっちがいい?」

「どっちでもいい……って言うか、何でその話をここでしなくちゃいけないの!」


いつものように声を上げてからハッとして、夏歩は辺りを見回す。
幸いにも周りには誰もいなかったのでホッとしつつ、夏歩は津田を睨みつけた。

現在二人が立っているのは、夏歩の住むアパートの前。夏歩の部屋の前ではなく、完全なる建物の前。

仕事を終えて帰宅した夏歩を、そこで津田が待っていたのだ。待ち構えていたのだ。


「だって一度中に入っちゃうと、なっちゃんは面倒くさがって外に出てくれなくなるから。あっ、忘れてた。おかえりー」

「……仕事終わって帰ってきたら、誰だって後は家でのんびりしたいでしょ。よっぽどのことでもない限り」


そこどいて、と言いつつ、どうせ津田は避けないとわかっているので、夏歩は自ら右にずれる。

そのまま津田を回り込もうと思ったのだが、夏歩に合わせて津田もまた同じ方向にずれる。仕方がないので今度は左に動いたら、津田もまた同じ方へ。

お互いに道を譲ろうとして、何度も同じ方にずれてしまうなんてことがたまにあるけれど、津田のそれは偶然ではなくわざとだと、ヘラっと笑った顔が語っていた。