素直になれない夏の終わり


「ねえ、なっちゃん。歩くの早くない?競歩の選手みたいになってるよ」

「早いと思うなら津田くんはゆっくり歩けばいいでしょ。別に合わせてくれなくていいから」

「そんなこと言わないでさ、もっとゆっくり帰ろうよ。家に帰るまでがデートなんだよ?景色とかお喋りとか楽しもうよ」

「楽しむような景色がどこにある」


街灯に照らされた街並みでも眺めればいいのか。明るくてキラキラしていて昼間とは違った雰囲気があるけれど、かと言って眺めてそれほど楽しいものでもない。


「あっ、じゃあさ、今度景色が楽しめるところに行こうよ」

「……どこよ、それ」


見つけておくね、と笑う津田の顔を見て、そのヘラっとした力の抜けた顔に、夏歩の方も自然と力が抜けてしまった。

早歩きをやめ、元の歩調に戻すと、こちらは予想外だったのか、津田が合わせきれずに夏歩より前に出た。

考えてみれば、津田の方が夏歩より上背があるから、その分コンパスも長いから、夏歩がせかせかと早足で歩いた分くらい、歩幅を大きくするだけで余裕で追いつけるということを失念していた。

自分より、確実に頭一つ分は高い位置にある津田の顔。ヒールのある靴を履けばその差は縮まるのだろうなと思って、でもそういった靴は履きこなせないと思い直して、縮められない身長差に、ほんの少し悔しくなる。