素直になれない夏の終わり


「ここって、祐也くんのお店なの?」


店の奥から、調理の始まる音が聞こえてくる。
それを聞きながら、夏歩はなんとなしに津田に問いかけた。


「うーん、祐也の店って言うか、祐也の兄貴の店かな。幾つか飲食店を経営してる人なんだけど、ここはその内の一つで、祐也が任されてるって感じ」

「へえー、でもお店一つ任せてもらえるなんて凄いね」


感心してそう返したら、津田はしばらくジッと夏歩の顔を見たあとで、ほんの少し拗ねたような表情を見せた。


「祐也のことは素直に褒めるんだね。俺が作ったものには素直に感想くれないのに。あと、祐也のことは下の名前で呼ぶのに、俺のことはいつまで経っても苗字で呼ぶよね」

「……なんなの、突然」


わからない?と問い返され、夏歩は頷いて答える。津田は子供みたいに拗ねた表情のままで


「……祐也にヤキモチ焼くとか、俺的にはとんでもない屈辱」


と大変悔しそうに呟いた。


「どうせ褒めるなら、祐也じゃなくて俺にして。それから呼び方も、津田くんは今度から祐也の方にして、俺のことは直哉って下の名前で呼んで」