素直になれない夏の終わり


そう言われると今度は何も言えなくなって、夏歩は開いていた口を閉じてもどかしそうに美織を見る。

貼り付けたような笑顔だった美織の顔に、その瞬間ようやく柔らかさが戻った。


「ごめん、ちょっとした仕返し。だって夏歩ってば、生意気にもあたしを弄ろうとしてくるから」

「……そんなつもりなかったし、そもそもニヤニヤしてないって言ったのに!」

「ごめん、ごめん。夏歩って弄りがいがあるからちょっとのつもりが止まらなくなるのよね」


そう言って自然に笑った美織は「ちょっと失礼」と夏歩の前に手を伸ばし、テーブルの奥にあるメニューを手に取った。


「はい、夏歩。ココアあるわよ」

「ありがとう」


バインダーに手書きの文字が並んだ紙が一枚綴じられているタイプの簡易的なそのメニューには、確かに下の方にココアの文字があった。


「……でもココアって、イタリアの料理だっけ?」

「違うけど、あって嬉しいでしょ?」

「まあ、うん……嬉しい」